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The Elder Scrolls 4 Oblivion 『星降し』編   ◇第三話「宵の輝き」

 18, 2025 20:04
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■ 帝国市民図書館




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日が暮れ始めた頃、図書館の警備に当たっていた衛兵たちが警備の引継ぎを始めていた。



「そろそろ交代の時間だな。」

「本当に夕方からの警備を魔闘士たちに任せてしまって大丈夫なんでしょうか?彼らは警備に関しては経験が浅いようですが・・・。」



図書館の警備責任者であるベテランの衛兵は不満を漏らす若い衛兵を、穏やかな表情でなだめる。

「上からの命令だ、それに魔術師の相手は彼らに任せるのが一番さ。」



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「魔術師の事だけでなく、盗賊の対策とか・・・。」

「連中はこの前騒ぎを起こしたばかりだ、盗賊たちに対する警戒が強まっているこの時に、こんなに警備の厳重な施設は狙わないだろう。」
 

警備責任者を務めるベテランの衛兵は、後輩を励ますように微笑みながら続ける。

「お前は例の盗賊を取り逃がした事を気にし過ぎだグラヴィウス。本の警備なんてつまらない部署に飛ばされたと思っているだろうが、お前はまだ若い、これからいくらでも取り戻せるさ。」

「いやっ、そういう事でなく・・・!」

「俺だってお前ぐらいの年の頃にはなあ・・・。」


若い衛兵は納得のいかない様子だったが。上司の昔話を聞き流しつつ、図書館から引き揚げていった。



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チラッ





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鎧を着た衛兵の足音が遠ざかっていく、二人は警備の引継ぎや確認作業を行っている隙に出来た警備の穴に滑り込むように、図書館の奥へと進む。


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この先は一般の利用者には解放されていない非公開区画だ。
この区画の警備は特に厳重だったが、その分、確認事項の詳細な情報共有により引継ぎは遅れていた。


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「(こんな程度か・・・。)」


オピオンは先陣を切って、非公開区画の最奥、「閲覧禁止書籍の間」を目指す。
ヴァランは幻惑魔法で気配を抑え、変性魔法で体を軽くし、足音を消しながら静かに進んでいた。オピオンは、一切魔法を使わず、ただその卓越した隠密能力だけで、ヴァランの魔法の効果を上回る静けさと素早さで図書館を進んでいく。


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隠密状態に入ったオピオンは、影のように静かで、存在しないかのように気配を消していた。
予定通りの順路を進んでいると知っていなければ、すぐ後ろを着いて行くヴァランですら見失いそうになるほどだった。


「・・・・・・」



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二人は図書館の奥深く、閲覧禁止書籍の間のすぐ近くまで辿り着いた。
秘密保持の為か、この辺りにはすでに警備の人影は無く、巡回する帝国魔闘士たちの足音が遠くから聞こえるだけだった。



「おいアレ」


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「トラップだな。」

無人の廊下には、淡い光を放つ対魔術師用の罠が仕掛けてあった。
二つの光は侵入者を睨みつける鋭い目のように、オピオン達を照らす。


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「頼んだ」

慣れた手つきで罠を解除するヴァラン、古い砦やアイレイドの遺跡に仕掛けられた罠に比べれば、安全な罠だった。
このトラップは、ある種の魔術に反応するような仕組みで、これも、この辺りに魔闘士たちが配置されていなかった理由の一つだろう。


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「事前に手に入れた情報によればこの通路の奥が閲覧禁止書籍の間だな」


「あぁ?このカギ・・・」



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「オイオイ、タンブラーが13本もあるぞ、初めて見たわこんなん」


「開錠魔法に対するトラップもあるな・・・、これも魔術師対策か。」


図書館の非公開区画にある閲覧禁止書籍の間の目前、二人は扉の前で錠前を覗き込んでいた。
一見何の変哲もない造りの様だったが、内部は極めて複雑で、魔術による防護も施されている。


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「このレベルの錠前となると、かなり開錠に時間が取られるな・・・。」


ヴァランは口元に手を当て考え込む。
時間をかけていては警備体制の引継ぎも終わり、脱出が困難になってしまう、さらに魔術結社の事も考えると時間は掛けられない。

猶予はない、ヴァランが解決策を見つけるために必死に考えを巡らせていた。その時


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カチャン

「ヨッシャ、開いた。」


「・・・・・・」


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二人は慎重に閲覧禁止書籍の間に足を踏み入れた。そこは、まるで時が止まったかのような静寂に包まれていた。
古い紙とカビの匂いがしていた他の階とは違い、この部屋には薄っすらとオレンジマーマレードのような香りが漂っている。



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部屋の中央に置かれたショーケースには、目的の魔導書の原典、『彼岸の果実』があった。
その装丁には傷や汚れは一切なく、大昔に書かれた書物とは思えない程美しい。



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「ふーん、案外見た目は普通だな」


「恐らくこの魔導書に収められた術式は「不老不死」、回復魔術や練丹術の類だろう。攻撃的な拘束術式や、破壊的な魔力の暴走は無さそうだな。」

原典を注意深く観察し、慎重に分析をするヴァラン。
彼の冷静な判断力は、墓暴きとして、数々の危険な任務をこなしてきた経験から来ているのだろう。

「この部屋に掛かっている魔術も防カビ防虫の術式か、魔導書に干渉しないように罠の類は仕掛けられていないようだ。」


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「じゃあチャチャっと持って帰るかあ♪」


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原典を手に入れ、閲覧禁止書籍の間を後にする二人。
警備に見つからないように素早く図書館から脱出する。





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「いんやあ~、楽勝だったなあ?」

「おい、家に帰るまでが窃盗だぞ。」


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警備体制の裏をかき、無事に原典を盗み出したオピオンは満足げに笑みを浮かべ、軽やかな足取りでギルドの拠点へ戻る。
日が落ちきる前に仕事を終え、魔術結社をも出し抜いた彼女の目には、達成感とともに慢心が見え隠れしていた。


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二人は裏通りを進み、建物裏の下水道入り口まで歩いていた。
このルートからなら安全にギルドへと抜けられるだろう。


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「・・・・・・!!」


その時、オピオンは何かに気付いた。遠くから衛兵の足音が迫ってくるのが聞こえたのだ。

彼女の心は一瞬で冷え込み、浮かれていた気持ちが一気に現実に引き戻された。



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「衛兵どもがコッチに向かってる・・・、かなりの数いやがる。」


「なっ・・・。」


突然の出来事に困惑する二人。


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「ありえねー・・・ありえねー事だけど。」


用心して帝国市民図書館のある地区の隣、エルフガーデン地区から下水道に降りるこのルート、この場に衛兵が駆けつけるはずはなかった。
だが現実として衛兵達がすぐそこまで迫っている



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衛兵の足音が迫る中、ヴァランは決意を固め、オピオンに向かって言った。


「・・・お前、本持って逃げろ。」


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「はあ!?何言って──」


「お前一人なら衛兵ぐらい簡単に撒けるだろ、それにそろそろ”星の出る時間”だ、この騒ぎを魔術結社の連中が聞きつければ、さらに状況は悪くなる。」


「くっ・・・」


「俺が幻惑魔法で時間を稼いで注目を集める、・・・何、後でアーマンドに言って科料を清算してくれればいいさ」


ヴァランは微笑みながら言ったが、額に冷や汗を流しているのがわずかに見えた。


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「これでこの前の借りはチャラにしといてくれよ・・・。」


「っ・・・──!!」


ヴァランはオピオンに背を向け、衛兵の足音が聞こえる方向に構える、彼女が逃げる時間を稼ぐために。


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「いたぞ!!」 「逃がすな!!」



衛兵達が迫る中、オピオンはその場を離れ、魔導書を守るために全力で逃げ出した。




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カッ!!!



「うっ!!!」「なんだ・・・!?眼がっ」




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衛兵達をヴァランが引き付けている間に、裏路地を矢のように駆けるオピオン。
どうしてこうなったのかは分からないが、とにかく魔導書を安全に持ち帰る。オピオンは自分に言い聞かせるように、さらに力を込めて走り続けた。



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タタタタタタタッ


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「・・・・・・っ!?」


その時、オピオンは突然足を止めた。
急に自分の足音が大きくなったように感じたのだ。



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いや違う、周りが静かすぎる。
駆け回る衛兵の足音はおろか、住民たちの気配も話し声も一切聞こえない。

それは、自分の鼓動すら聞こえてくるような異常な静寂だった。



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突然の出来事に彼女の心は黒い雲が広がるような不安で満たされていた。
こんな事が起きる心当たりは一つしか無い。


「・・・・・・!!」


オピオンが恐る恐る上を見上げると、すでに空には星が瞬いていた──。


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「────人払い。」




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その瞬間、女性の冷たい声が静寂を破った。
白いローブを纏ったハイエルフの魔術師が、突然オピオンのすぐ後ろに現れたのだ。


「・・・・・・」


彼女が後ろを取られたのは初めての経験だった、まるで幻のように現れた魔術師の姿を前にオピオンは言葉を失う。


「人払いの術式を敷いておいた、キミ以外に用意は無かったのでね?」


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「初めまして、だね?オピオン、私は「天上に至る光の門」の代表、エレンドラだ。キミには礼を言わせてもらうよ。」


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「なんで・・・・・・?」


オピオンは混乱しながらも、彼女の言葉に耳を傾けた。
エレンドラは落ち着いた笑みを浮かべながら続ける、その静かな口調がむしろ不穏さを際立たせていた。


「キミの事はよく知っているよ、”私の”魔導書を取り返す為に尽力してくれただろう?」


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エレンドラは冷ややかな視線をオピオンに向け、言葉を続けた。

「あの魔導書は『原典』の力を正しく扱える私達こそ所有者に相応しい・・・。」

彼女の声には明らかな見下しと、冷徹な態度が滲み出ていた。

「しかし、魔術師ギルドの連中に邪魔をされてね?対魔術師用に警備を強化されたあの図書館から持ち出すには、魔術師以外の──そう、キミ達の協力が必要だったんだ。」



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エレンドラは勝ち誇ったように、オピオンに語りかける。その声には、計画の成功を自賛するかのような響きがあった。
彼女は、オピオンたちがどれほど巧妙に罠にかけられたかを、言って聞かせてやりたくて仕様が無いといった様子だった。

「それで敢えて私達の情報を流した、星に関係した魔術を使うと知った図書館の連中は、急ごしらえの警備態勢で魔導書を守らざるを得なくなった。キミ達にも物乞いを通じて私の扱う術式について教えてあげたんだ。」


「な・・・・・・」


「不自然にキミ達に有利な状況でも、魔術結社、そして「星に関係する魔術の対策」という理由を得たキミ達は疑いもせず、安心して図書館に向かった、私達の掌の上で踊らされているとも知らずにね・・・。」



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エレンドラの周囲に光が瞬く、それはまるで空の星を降ろしたかのような美しい光景だった。


「魔導書を奪ったキミ達に、私が魔術で衛兵達をけしかけた。この前の騒ぎで、キミなら衛兵達を撒くぐらい簡単だと知っていたからね?」


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「(あの時・・・。)」

オピオンは自身の軽率な行動を思い起こし、歯噛みする。
あの日から自分を利用する計画が始まっていたのだろうか。



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「そしてキミ達を分断し、衛兵と魔闘士達の注目をキミのお友達に集めてもらって、やっと二人きりになれた・・・。後はキミから「原典」を回収してオシマイ・・・。」

エレンドラは笑う、彼女の冷たい笑みがオピオンの心にさらに重くのしかかった。

「キミはあの日、ポーカーでお友達を嵌めた時、確かこう言っていたね?”勝利を確信した時人は油断する”・・・だったかな?私も同意見だよ。」

あの日、あの時から、オピオンは常に監視され、魔術結社の思惑通りに誘導されてきたのだ。
エレンドラの掌の上で踊らされていたことに気づき、怒りと悔しさが胸に込み上げてきた。


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「っく・・・!!」


勝ち誇ったように満足気な笑みを浮かべるエレンドラに背を向け、オピオンはその場から駆け出した。
とにかく、こんな奴らに「原典」を渡す訳にはいかない。


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瞬く星のような光を手で弄びながら、エレンドラは不敵な笑みを浮かべる。
風のように裏路地を駆けるオピオンを追う様子も無く、落ち着いた様子で彼女は呟いた。

「フフフ・・・逃げることはできないよ、キミはもう私の術式の中。」



つづく



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次回 『星降し』編   最終話「星の降る夜」



Tag:TES4:Oblivionseason3

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